建築基準法とは、建築物の安全確保と環境保護、さらに都市計画の健全な発展を実現するため、1950年に策定された法令です。
建築物の構造基準や利用目的、火災対策や地震対策に関する規則を明文化し、法的適合性を保証するために設けられました。現在の社会情勢に適応するため、継続的に法改正が行われています。
建築基準法は、「建築物の安全性の確保」「都市環境の整備・維持」「快適な生活環境の確保」の3つの役割がある法令です。
「建築物の安全性の確保」では、地震や火災などに備え、建物の耐震性・耐火性・構造強度における、一定の性能を満たすための基準を設けています。
「都市環境の整備・維持」は、用途地域制度を通じて土地の適切な利用を進め、秩序ある都市づくりを目指しています。
「快適な生活環境の確保」においては、火災予防やユニバーサルデザインの導入を通じて、すべての人が安心して暮らせる建物の設計を推進しています。
建築基準法は「単体規定」と「集団規定」という2つの規則体系によって構成されています。
単体規定は、建物自体の安全性や衛生環境に関する基準を全国一律で定めたもので、火災対策・耐震性能・採光の確保・換気設備・建築設備の基準が含まれます。
集団規定は、市街地の環境整備を目的としており、主に都市計画区域で適用されます。建蔽率・容積率・高さ制限・道路との接道条件などが定められ、地域の特性に応じて建物の配置や規模を規制するものです。
2025年に実施された建築基準法の改正は、「2050年カーボンニュートラルの実現」と「2030年までに温室効果ガスを46%削減する」という政府の環境目標に対応するために行われました。
建築分野は、国内のエネルギー消費量のおよそ3割を占めており、省エネルギー対策の加速が強く求められています。こうした背景のもと、今回の改正では、建物の省エネ性能向上に向けたルールが拡充されました。
さらに、木材の活用拡大も大きな柱の一つです。木材は成長過程で大気中の二酸化炭素を吸収し、建物として使われることで長期間炭素を固定し温室効果ガスの削減に寄与するため、温室効果ガスの削減に役立つと期待されています。その特性を活かすため、建築物の木造化を促進する方向で、2024年4月に防火基準の見直し・合理化が施行されました。
また、建物の安全性を向上させるため、「4号特例」の適用範囲縮小が改正内容に含まれています。これまで構造計算の審査が免除されていた一部の小規模建築物に対しても、構造安全性の審査が義務化され、地震などへの備えが強化されることになりました。
改正法令は2022年6月17日に公布されており、2025年4月1日に実施されました。実施日以降に着工する建築物については、確認申請の時期に関わらず、更新された基準への準拠が必要となります。
2025年4月の建築基準法改正では、脱炭素社会の実現や住宅・建築物の安全性向上を目指し、制度全体にわたる大幅な見直しが行われました。以下に、法改正において重要な変更ポイントをご紹介します。
※「燃えしろ設計法」とは、木材が燃焼する際に炭化層を形成し、それが内部を保護することで耐火性能を確保する設計方法です。
※「BEI(Building Energy Index)」とは、建物全体の一次エネルギー消費量を評価する指標で、省エネ性能を数値化するものです
施工業者や建築主は、法改正内容を理解し、早急に体制を整えることで、リスクを最小限に抑え、スムーズなプロジェクト遂行が可能になります。この機会に、設計・施工プロセスの改善や技術力の向上を図ることが重要です。
4号特例制度は、特定規模以下の木造住宅に対し、構造検証を省略可能とする制度です。しかし、2025年の制度変更により適用範囲が縮小されます。この制度は従来「木造構造」「2階建て以下」「総延床面積500㎡以下」の建築物が適用対象でしたが、制度変更後は「平屋建てかつ総延床面積200㎡以下」の建築物のみが検査省略の適用対象となります。これにより、より多くの建築物が構造安全性の審査対象となり、地震や災害への備えが強化されます。
それに伴い、木造建築物についても非木造と同等の構造安全性やエネルギー効率基準の検証が義務づけられ、購入者が確かな安全性のもとで、建築物を取得できるようになりました。あわせて建築士法も改正されたため、二級建築士の設計権限が「高さ16m以下・階数3以下」まで拡張されたことを把握しておきましょう。
構造計算が必要となる建築物の規模基準が変更されます。改正前は「延床面積500㎡超」が対象でしたが、改正後は「延床面積300㎡超」に引き下げられました。また、屋根重量だけでなく、実壁量や柱の最小直径の算定基準についても、実際の建物重量に基づいた構造計算が必要となり、太陽光発電設備や断熱強化に伴う重量増加への対応が求められるようになりました。この変更により、地震対策がより強化されます。
木造建築物の高さ制限が緩和され、設計の幅が広がりました。改正前は「高さ13m以下かつ軒高9m以下」が基準でしたが、改正後は「3階以下かつ高さ16m以下」に変更されました。この緩和により、木造建築物の設計自由度が向上し、より多様な建設が実現可能となります。
これまでは、3,000㎡超の木造建築に対して厳格な耐火構造義務が設定されており、柱や壁を不燃材で覆う決まりがありました。そのため、木材の質感を活かせず、外観デザインに一定の制約があったのです。
改正後は、一定基準の防火性能を確保していれば、木材を露出させるデザインが可能となります。たとえば、「燃えしろ設計法」などを採用することで、木材質感を活かした「あらわし」仕様の建築物も建てられるようになりました。
このように今回の改正により、木材利用の促進、そして自然な質感を活用した意匠性の高い建築物の建築が可能となりました。政府が掲げる、脱炭素社会実現の政策目標に合わせた形での法改正といえます。
中層建築物(5~9階建て)の耐火性能基準が改正され、最下層部分については「90分耐火性能」での設計が認められるようになりました。木造の中層建築物を建てられるようになったことで、木材活用の促進、建築様式のさらなる多様化が期待されます。
そもそも、中層建築物においては、最上階〜4階以内は1時間、5~14階は2時間、15階以上は3時間の耐火性能が求められていました。ただ、5階建てと14階建てに同一水準の耐火基準が適用されていましたが、この基準が合理化されたことで、設計の柔軟性が向上し、木材利用がさらに促進されます。
2025年4月以降は、新規建築物に対する省エネ基準への適合が法的に義務化されています。これまでは説明・届出義務にとどまっていましたが、今後は設計段階でのエネルギー効率計算と適合性判定が必須となります。
エネルギー効率基準は「一次エネルギー消費量基準(BEI)」と「外皮基準」で構成されており、非住宅はBEIのみが適用されますが、住宅建築物はBEIと外皮基準の両方が適用されます。この変更により、設計段階でのエネルギー効率計算と適合判定が必須となるため、建築主への説明や工程管理への影響が大きく、早期の対応が求められます。
増改築工事については、改修する箇所のみが基準適合の対象となり、既存部分には適用されません。これにより、エネルギー効率改修のハードルが大幅に下がることが期待されています。
さらに、先述の通り省エネ改修を促進するため、高さ制限や容積率の緩和措置も実施されます。屋根断熱や太陽光設備の設置により、建物の高さ・面積が増加した場合でも、一定の条件を満たせば特例許可を受けられるようになります。
既存建築物に対する現行基準の適用が合理化されます。改正前に建てられた既存建築物の中には、接道義務や道路内建築制限といった「現行基準に適合しない建築物」が存在しています。これらの建築物は、立地条件の制約により、リノベーション工事を行う際に現行基準への適合が困難となるケースが多発していました。
しかし改正後は、特定の条件を満たす大規模修繕や模様替え工事について、現行基準の一部適用が免除されます。具体的には、防火・避難・集団規定に関する基準について、対象範囲を限定した適用除外制度が新たに創設されました。
また、接道義務や道路内建築制限についても緩和措置が導入されます。改修工事が市街地環境に悪影響を与えないと判断される場合には、現行基準の適用が免除されます。ただし、これは安全性や地域環境を損なわないと認められる工事に限定されるものです。
建築基準法の制度変更は、施工事業者と建築主、両者に対して以下のような影響を与えます。
それぞれの立場からメリットとデメリットを解説します。
施工事業者側の大きなメリットは、建築物の品質・構造安全性向上により顧客満足度が向上しやすくなることです。耐震性やエネルギー効率が強化された建築物を提供することで、事業者としての信頼性が高まり、市場における競争力の強化につながります。
また、脱炭素社会に向けた取り組みから企業価値の向上、環境配慮型施工の実現により企業イメージの大幅な向上が期待できます。
一方で、建築許可申請業務の増加が、施工事業者側の負担となるのは避けられません。4号特例制度の縮減により、構造計算や提出資料作成などの業務量が大幅に増加し、とりわけ中小規模の施工事業者において、深刻な負担となる可能性があります。
また、施工スケジュールの長期化や外部委託・社内体制整備が発生し、結果的にコスト増加や業務効率の低下が懸念されます。これらの変化に対応するため、事前準備と体制整備が欠かせません。
建築主側のメリットは、エネルギー効率向上にともなう光熱費の削減にあります。断熱性や冷暖房効率が向上することで、年間のエネルギーコストを大幅に抑制できます。
また、耐震性の向上により建物の安全性が高まり、長期的な資産価値の向上も期待できます。補助金制度の活用、個人レベルでの環境保護への貢献・持続可能社会への参画など、多数の恩恵が得られます。
構造計算書の作成費用やエネルギー効率基準対応のための高性能建材・設備導入により、初期費用(イニシャルコスト)が増加する傾向にあります。また、建築許可申請や審査プロセスの追加により工期が延長したり、新基準に対応できる業者選定に時間がかかったりする可能性があります。
ここでは、建築基準法改正後における施工業者側の対策、そして知っておきたいことをご紹介します。
建築基準法改正にともない、施工事業者は施主に対して、法改正の影響を的確に説明したうえで、社内ガイドラインを整備する必要があります。
特に重要なのは、4号特例制度の縮減に伴う施主への説明です。従来の小規模建築物に対する建築許可審査の簡素化が廃止されることで、構造関係規定等の図書や省エネ性能を証明する書類の提出が新たに必要となり、設計段階でのコスト上昇が見込まれます。
施工事業者は、これらの変更ポイントを理解しやすく資料化し、建築主に提示することで、法改正の背景や目標を理解してもらうことが重要となります。特に、価格変更の妥当性を納得してもらうため、法改正によるコスト増加が避けられない理由を明確に伝えましょう。
また、建設期間の長期化が懸念されるため、余裕を持った計画と建設時期の相談を前提にした営業活動を徹底します。施主との間で綿密なスケジュール調整を行い、コストや期間増加に対する不満を事前に回避しましょう。
建築基準法制度変更に対応するため、ICT(情報通信技術)や遠隔管理ツールの導入を検討しましょう。
特に重要なのが、クラウド上で図面確認・進捗共有ができるツールの導入です。構造計算書やエネルギー効率図書など提出書類が増加する中、関係者間での情報共有がスムーズになり、設計変更や行政との連携が大幅に効率化されます。また、記録の残るチャットや音声記録を活用すれば、設計変更指示のトレーサビリティを確保できます。
現場確認・進捗管理を遠隔で実施することで、移動時間や現場調整の負荷を大幅に軽減できます。現場と事務所をリアルタイムで接続し、映像や音声を通じて現場状況を確認する「遠隔臨場」を取り入れてみましょう。
遠隔臨場について詳しく知りたい方は、「遠隔臨場とは?注目されている背景や導入メリット、注意点を紹介」をご覧ください。
2025年の建築基準法改正は、建設業界に大きな変化をもたらすもので、法改正に伴う設計・施工プロセスの変更、行政手続きの複雑化、工期やコストの増加といった課題に直面する中で、効率的な運営と高品質な対応が求められます。最新技術を活用し、業務プロセスを最適化することが重要です。その中で特に注目されるのが、遠隔支援ツール「SynQ Remote(シンクリモート)」です。
「SynQ Remote(シンクリモート)」は、建設現場の課題を解決するために開発され、ポインタ描画・録画共有機能を備えた現場特化型のビデオ通話ツールです。国交省NETIS登録の遠隔臨場要領にも準拠しており、リアルタイムで現場の映像や音声を共有し、管理者と作業者が離れた場所でもスムーズに連携できます。特別な機器や複雑な設定は不要で、普段使用しているスマートフォンやPCにアプリをインストールするだけで利用可能です。
「SynQ Remote(シンクリモート)」のようなICTツールを積極的に活用することで、建築基準法改正にともなう変化が、転機になるでしょう。コストと工期、現場の効率化でお悩みの方は、ぜひ「SynQ Remote(シンクリモート)」の導入をご検討ください。