既存建築物の現況調査ガイドラインは、既存建築ストックの有効活用の円滑化を目的として、増築等または用途変更を行う既存建築物とその敷地について、建築基準法令への適合状況を調査する手順、方法、既存建築物の緩和の確認方法、確認申請で活用する現況調査報告書の作成方法を示した資料です。
第3版では、現況調査を「調査1 検査済証の交付状況等の調査」と「調査2 現地調査」に分けて整理しています。書類確認と現地確認を組み合わせて法適合状況を把握する構成になっているのが特徴です。
第3版では、検査済証が確認できない場合についても、直近の建築等の工事の着手時を調査し、資料確認と現地調査を通じて適合状況を整理する方法が示されています。
出典:国土交通省「既存建築物の現況調査ガイドライン(第3版)」p.4、pp.6〜7
そのため、検査済証がない建物でも、直近工事の着手時の調査、資料確認、現地調査を通じて、法適合状況を整理します。
既存建築物の現況調査を理解するうえでは、単なるチェックリストとしてではなく、既存建築物の法適合性を確認申請や行政協議につなげるための実務資料として捉えると分かりやすいでしょう。
第3版でまず押さえたいのは、調査の流れ、検査済証が確認できない場合の進め方、現地調査の具体的手法、判定区分、報告書のまとめ方です。実務で使う際は、「何が書いてあるか」を軸に整理するのが確実です。
| 観点 | 第3版で確認できる内容 | 実務上の見方 |
|---|---|---|
| 調査の基本構成 | 調査1(検査済証の交付状況等の調査)と調査2(現地調査)で構成 | 初動の進め方を整理しやすい |
| 検査済証がない場合 | 直近工事の着手時を調査し、その時点の規定への適合状況を確認する | 資料不足案件の進め方を整理しやすい |
| 現地調査手法 | 点検口、部分開口、ファイバースコープ、各種計測機器などを用いる | 隠蔽部の確認方法を検討しやすい |
| 判定区分 | 適合、不適合(既存不適格)、不適合(その他)、不明 | 報告書や行政説明の整理に使いやすい |
| 報告書作成 | かがみ、チェックリスト、結果表、図面、証跡書類で構成 | 根拠資料を残しやすい |
出典:国土交通省「既存建築物の現況調査ガイドライン(第3版)」pp.3〜13をもとに作成
第3版では、現況調査を大きく2段階に分けています。まず行うのが、検査済証の交付状況や直近工事の着手時を確認する「調査1」です。次に、実際の建物を確認する「調査2」を行います。
この構成によって、最初に資料面の整理を行い、その結果に応じて現地調査の進め方を決める流れが明確になります。現況調査をどこから始めるべきかが分かりやすく、実務の初動整理に向いています。
検査済証が確認できない場合でも、現況調査は進められます。第3版では、直近の建築等の工事の着手時を調査し、その時点で適用されていた建築基準法令への適合状況を整理する流れを示しています。
また、国土交通省の技術的助言では、検査済証が交付されていないことのみをもって、直ちに違反建築物として扱うものではないことが示されています。検査済証の有無だけで判断を止めるのではなく、確認済証、設計図書、工事履歴などの資料を収集し、現地調査の結果と合わせて適合状況を整理することが重要です。
第3版では、現地調査の方法として、目視、実測、写真記録に加え、天井・床下点検口、原状復旧可能な範囲での部分的な開口、ファイバースコープ、計測機器の活用が示されています。
既存建築物では、図面と現況が一致しないことや、隠蔽部の確認が必要になることが少なくありません。どの方法で、どこまで確認するかを検討するうえで、第3版の記載は実務上の参考になります。
第3版では、現況調査結果を「適合」「不適合(既存不適格)」「不適合(その他)」「不明」で整理します。
特に重要なのが「不明」の扱いです。不明は、やむを得ず調査ができず、適合状況が分からない規定を示す区分です。不適合と同じ意味ではありません。資料不足や未確認範囲がある場合でも、何が分かっていて、どこが未確認なのかを切り分けて整理できます。
第3版では、現況調査報告書を、①かがみ、②調査項目チェックリスト、③現況調査結果表、④調査箇所を示した図面、⑤検査済証の交付事実または工事着手時が分かる書類、で構成するとしています。
調査結果だけでなく、どの資料とどの現地確認に基づいて判定したかまで残すことが前提になっているため、確認申請や行政協議で説明するための根拠資料を整理しやすくなります。
現況調査は、まず検査済証の交付状況等を確認し、その結果を踏まえて現地調査を行い、最後に判定結果と根拠を報告書に整理する流れで進めます。
| 工程 | 主な内容 | 実務上のポイント |
|---|---|---|
| 1. 検査済証の交付状況等の調査 | 検査済証、確認済証、設計図書、改修履歴、登記事項証明書、固定資産税関係書類、行政庁の台帳情報などを確認 | 建築時期と工事履歴の整理が出発点 |
| 2. 現地調査 | 目視、計測、写真記録、必要に応じて点検口、ファイバースコープ、部分開口などで確認 | 資料と現況の差異を把握する |
| 3. 法適合状況の判定 | 適合、不適合(既存不適格)、不適合(その他)、不明に整理 | 不明の理由や未確認範囲も残す |
| 4. 調査報告書の作成 | 根拠資料、調査方法、判定結果、図面・写真との対応関係を整理 | 確認申請や行政協議で説明できる形に整える |
出典:国土交通省「既存建築物の現況調査ガイドライン(第3版)」pp.3〜7、p.13をもとに作成
現況調査では、最初に検査済証の交付状況を確認します。検査済証が確認できる場合は、直近工事について完了検査まで進んでいることの確認に役立ちます。
検査済証が確認できない場合は、確認済証、設計図書、改修履歴、過去の申請図面、登記事項証明書、固定資産税関係書類などを集め、直近の建築等の工事の着手時を整理します。確認済証や検査済証を紛失している場合には、台帳記載事項証明など行政庁の台帳情報が確認に役立つこともあります。
この段階で重要なのは、「何が残っていて、何が不足しているか」を明確にすることです。資料が不足している場合でも、確認申請書の副本や同等図書、工事請負契約書、登記事項証明書、固定資産税関係書類などを確認し、直近の建築等の工事着手時を整理します。検査済証の交付状況は、特定行政庁への処分等概要書の閲覧請求や台帳記載事項証明書の発行によって調査できます。
出典:国土交通省「既存建築物の現況調査ガイドライン(第3版)」p.4
調査の出発点は、検査済証の有無と、既存資料の棚卸しです。
現地調査では、既存資料と実際の建物の状況を照合しながら確認を進めます。
基本となるのは、目視、計測、写真記録です。既存建築物では隠蔽部が多く、表面だけでは判断しにくいこともあります。そのため、必要に応じて点検口、天井裏、床下、ファイバースコープ、部分開口などを使って確認します。
建物の用途、構造、資料の残存状況によって、重点確認箇所は変わります。たとえば、用途変更を伴う案件では防火・避難関係、木造案件では耐力壁や筋かいなどの構造要素が重要な確認対象になります。
現地調査は、資料と現況の差異を具体的に把握し、判定の根拠を積み上げる工程です。
現地調査について詳しくは以下の記事をご覧ください。
法適合状況の判定は、収集した資料と現地調査の結果をもとに行います。現況調査では、結論だけでなく、その結論に至った根拠を残すことが重要です。
判定区分は次のとおりです。
| 判定区分 | 意味 | 実務上の扱い |
|---|---|---|
| 適合 | 現行の建築基準法令の規定に適合している | 根拠資料や確認内容を整理して記載する |
| 不適合 (既存不適格) |
現行規定には適合していないが、建築当時または直近工事着手時の規定には適合していた | 建築時期や当時法令を根拠に整理する |
|
不適合 |
法令に適合していないことが確認でき、既存不適格には当たらない | 是正や追加検討が必要になる |
| 不明 | やむを得ず調査ができず、適合状況が分からない | 理由、範囲、追加調査の要否を明記する |
既存不適格と不適合を分けて整理することは、増築等や用途変更の検討で特に重要です。既存不適格であることが確認できた規定については、法の定める条件の範囲で、既存不適格を継続したまま増築等や用途変更が可能になる場合があります。
ただし、不明となった項目の扱いは、検査済証の有無や直近の建築等の工事着手時を特定できるかによって異なります。検査済証の交付が確認できる場合には、不明の規定を既存不適格とみなして既存建築物の緩和を適用できる場合があります。一方、検査済証がなく、工事着手時も特定できない場合は、現行規定への適合を確認する必要があります。
出典:国土交通省「既存建築物の現況調査ガイドライン(第3版)」pp.5〜7、p.14
調査結果は、確認申請、行政協議、改修計画の検討に使えるよう、調査報告書として整理します。
報告書には、建物概要、調査者情報、調査日、調査方法、確認した資料の内容を記載します。そのうえで、各確認項目ごとに判定区分と、その根拠を一覧化します。
特に実務では、図面、写真、実測値の対応関係が明確であるほど説明しやすくなります。不適合や不明の項目については、問題となる部位、未確認範囲、追加調査や是正検討の要否も併記しておくと、後続の協議を進めやすくなります。
調査報告書は、判定結果だけでなく、判断過程まで説明できる形で作ることが重要です。
現地調査では、用途、構造、増改築履歴、今回の工事内容に応じて重要項目を確認します。ここでは、調査報告書でも確認対象になりやすい代表項目を整理します。
※国土交通省の調査項目チェックリストは、2階建ての木造一戸建て住宅(軸組工法)を想定した例です。その他の建築物では、構造種別や用途に応じて、必要な規定・調査項目を追加します。
出典:国土交通省「既存建築物の現況調査ガイドライン(第3版)」pp.10〜12
まず確認したいのが、建物が建つ敷地条件です。
敷地が建築基準法上の道路に接しているか、前面道路の幅員がどうか、敷地境界がどこかを確認します。これらは増築や用途変更の可否にも関わるため、早い段階で整理することが重要です。
あわせて、用途地域、防火地域、準防火地域などの指定も確認します。特に増築や用途変更を伴う場合は、既存建物の現況だけでなく、計画後に求められる条件も見据えて把握しておく必要があります。
建物の用途、面積、階数は、法適合性の判断の前提になる項目です。
現況用途が確認申請時の用途と一致しているか、各階の使い方が変わっていないかを確認します。用途変更があると、防火・避難・設備に求められる条件も変わるため、特に重要です。
また、建築面積、延べ面積、階数については、図面照合や実測で整理します。過去の増築や改修が図面に反映されていないこともあるため、無確認の増築がないかも確認対象になります。
防火・避難関係は、既存建築物の現況調査でも優先度が高い項目です。
確認対象としては、防火区画、竪穴区画、直通階段、避難経路、非常用進入口などが挙げられます。建物の用途や規模によっては、内装制限、排煙、防火設備の設置状況も重要です。
現況と既存図面が一致しない場合は注意が必要です。区画が撤去されている、避難経路上に支障がある、扉の仕様が変わっているといった状況は、法適合状況の確認や追加調査が必要になる場合があります。
構造に関する調査では、主要な構造部材の位置や仕様、劣化の有無を確認します。
対象となるのは、柱、梁、壁、耐力壁、筋かいなどです。木造、鉄骨造、鉄筋コンクリート造など構造種別によって確認ポイントは異なりますが、基本は既存資料と現況が整合しているかを見ることです。
加えて、ひび割れ、腐食、漏水、変形、欠損など、安全性や耐久性に影響する劣化状況も確認します。劣化が大きい場合は、法適合性の整理とは別に、安全性の観点から詳細調査や是正検討が必要になることがあります。
建築設備の確認も欠かせません。
対象には、換気、排煙、非常照明、給排水などがあります。必要となる設備や基準は建物用途によって異なるため、現況用途と計画用途の両方を踏まえて確認することが大切です。
増改築や用途変更の履歴がある建物では、設備だけ更新されて図面が古いままのこともあります。そのため、現地確認によって設備の設置状況と図面の整合を取る必要があります。
既存建築物の現況調査ガイドラインについてよく寄せられる質問をまとめました
できます。
現況調査ガイドライン第3版では、検査済証が確認できない場合に、直近工事の着手時を調査し、資料確認と現地調査を通じて適合状況を整理する流れを示しています。検査済証がないことだけで直ちに調査不能になるわけではありません。
同じではありません。
不明は、やむを得ず調査ができず、適合状況が分からない状態です。不適合は、法令に適合していないことが確認できた状態を指します。
既存不適格は、建築当時または直近工事着手時には適法だったものの、その後の法改正によって現行基準に合わなくなった状態です。
不適合(その他)は、現行規定または建築時・直近工事着手時の規定への不適合が確認され、既存不適格には該当しない状態です。
増築等や用途変更を検討する際は、この違いを整理しておくことが重要です。
一律ではありません。
建物の用途、構造、残存資料、計画内容に応じて必要な範囲を判断します。点検口、ファイバースコープ、部分開口などを使い、合理的な範囲で確認していくのが基本です。
既存建築物の現況調査では、検査済証の有無、資料と現況の差異、不明部分の有無などを整理しながら、関係者間で認識をそろえて進めることが重要です。特に、現地で確認した内容を設計者、施工者、発注者、行政協議の担当者などが正確に共有できるかどうかで、調査の進めやすさは大きく変わります。
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