シンクリモートを導入する時に、よく耳にするのが、“電話の方が早い”と職人の方々が抵抗を示し、会社が目指す、遠隔化による効果を実現できないというお悩みです。
今回は、その「“電話の方が早い”を、運用設計でひっくり返す」を目標に掲げ、シンクリモートによる現場の効率化を推進している、groove agent様にお話をお聞きしました。
同社のDX推進役・鴨志田様は、現場にシンクリモートのQRコードを3面掲示し、初回は必ず同伴で接続体験を行う。—この2つの工夫で50代の職人でも迷わず入室できる運用を確立しました。
結果、施工管理の現場訪問は約30%削減と非常に高い効果が出ています。
今回は具体的な“現場DX”推進方法について伺いました。
鴨志田様:施工管理1人あたりの担当を3件→5件へ増やす方針でしたが、現場が広域で移動がボトルネックでした。当社は完全フルリモートなので、若手の現調帯同やその場判断の共有も難しい。遠隔でも“見て把握している”実感を現場と管理の双方に持たせる仕組みが必要でした。
鴨志田様:定着の肝は、“人に頑張らせない導線”を作ることでした。
まずQRは3面貼りです。現場の窓・玄関・ベランダなど、作業動線上で必ず目に入り、どこにいても1歩で入室できる位置に貼る。これで「QRが見つからない」「遠い」が消えます。
次に初回は必ず同伴接続。私が現場で一度、一緒に入って、「読み取り→入室→“線を引く”」までを体験してもらう。
ここで“思ったより簡単だ”が腹落ちすると、50代の職人さんでも抵抗がほぼなくなりました。
あとは簡易マニュアルをその場に掲示します。
細かい手引きは誰も読まないので、「ここを読み込む/ここで指す」の2ステップだけを大きく。社外はアカウント発行を極力やめてURL入室に統一しました。登録フローで離脱されるくらいなら、“困ったらQRにかざす”を徹底した方が速い。将来的には担当別の“名刺QR”も回したいと思っています。名刺さえ渡しておけば、現場で「とりあえずこのQR」でつながれる。こうやって入口の摩擦をゼロに近づけるほど、運用は勝手に回り始めます。
実際に現場に掲示されているマニュアル(※QRコードは加工しております。)
実際に現場で行われている対策
QR3面貼り:窓・玄関・ベランダなど、どこで作業していてもすぐに読み取れる位置に掲示。
初回同伴接続:現場で必ず一度一緒に接続体験。これで50代の職人さんでも抵抗が消える。
簡易マニュアルの掲示:読み取り→線引きなど、最低限の操作を1枚で。
社外はURL入室徹底:アカウント管理は最小限。“困ったらQRにかざす”を共通ルールに。
鴨志田様:最初は正直、「LINEでいいじゃないか」という声が多かったんです。
そこで、使い方を“根性論”にせずに仕組みで回すためにKPI化しました。
週に2回、活用レビューの時間をとって、共通カレンダーに“誰が・いつ・どの目的で”使ったのかを必ず記録してもらうんです。そうすると回線の取り合いも防げますし、うまくいったケースが見えるので、まだ使えていないメンバーには「この現場でこう効いたよ」と具体的に声をかけられる。さらに評価制度ともつなげて、「シンクリモート活用率」を個人目標に入れました。
結果として、この“見える化と評価の連動”が効いて、定着のスピードが一気に上がりましたね。
社内浸透のために行なった具体施策
週2回の活用レビュー:共通カレンダーに誰が/いつ/何の目的で使ったかを登録。
回線重複防止&成功事例の横展開:未利用者には具体事例で声かけ。
評価制度と連動:「シンクリモート活用率」を個人目標に設定。
この“見える化+評価連動”で定着速度が上がりました。
鴨志田様:いちばん効いているのは、やはり施工管理です。若手が現調に出たら、こちらで映像を見ながら「この配管を辿って」「この面を触ってみて」と、その場で具体的に指示を出せます。納まりの相談も、軽微なものならその場で結論まで持っていけますし、設計との調整も“後日資料化”みたいな手間がかなり減りました。
それと、動画で全体を映してもらうと、材料の残り具合とか工程の“抜け”が早めに見えるんです。写真だと“今そこだけ”の話で終わりがちですが、動画だと「じゃあ発注を前倒ししよう」「応援を入れよう」といった判断が一歩早くなる。
工事部の自社大工に関しては、図面外のイレギュラーや現場の違和感が出た瞬間に繋いでもらっています。電話や写真だと解釈に差が出ますが、映像を見ながらなら方向付けが速い。アフターフォローでも、社内のダブルチェックで下地の見落としを施工中に潰せるようになってきました。クロスを張ってから「下地がない」となると人もお金も動きますから、そこを未然に止められるのは大きい。
外部業者の立ち合いも、キッチンやユニットバス、内窓、左官の現調でよく使います。搬入動線や駐車、管理規約の注意点は、リモートで当日共有すれば十分なことが多い。正直、15分のためだけに現場に行っていた回数はかなり減りましたね。
ーーシンクリモートの導入後、具体的にどのような効果が出ていますか?
鴨志田様:数字でわかりやすいのは、施工管理の現場訪問がだいたい三割ほど減ったことです。これまで午前2件、午後2〜3件を巡るのが定番でしたが、そのうち一件は「今日はリモートで十分だな」と判断できるケースが増えました。結果として、担当件数を3件から5件へ引き上げる目標に現実味が出てきました。
定性的には、現場側の心理が変わりました。「来ない=見てない」という不満が、こまめな短時間接続を重ねるうちに「見てくれている」に反転するんです。こちらとしても、遠隔でも把握できている実感があるから、移動削減を前提に運用を組みやすくなりました。
ーーシンクリモートの活用で何かつまづいたりしていることはないのでしょうか?
鴨志田様:もちろん順風満帆ではありません。電波が不安定な現場では、その場は割り切って電話に切り替えます。ただ、そこで終わらせず、次回以降の現場でQR掲示や初回同伴を徹底して“入り口のつまずき”を消す。ということをしています。
あと、前にも述べていますが、「LINEで十分」という声も最初は多かったですね。そこは録画や図示、証跡化の価値を具体例で見せて、用途の使い分けを腹落ちするまで説明しました。
もう一つ、“来ないと見てない”と思われるという問題はまだ根強くあるのですが、短時間の高頻度接続と、要所は現地判断というハイブリッドで解いています。会いに行くべき場面はやっぱりあるので、そこは迷わず行く。その代わり、それ以外は遠隔で素早く回す、という割り切りです。
ーーフルリモートの教育でも活用されていましたよね?
鴨志田様:フルリモートだと、どうしても孤立のリスクがあります。だから教育は“長時間の座学”ではなく、“短時間・高頻度の遠隔帯同”に振りました。若手が「どこを見るか」を現場の映像で学ぶほうが、実戦的で定着が早いんです。
評価面では、活用率をKPIに入れて、レビューで振り返る仕組みにしました。数字で見えるから改善も早いし、本人も自分の成長曲線を実感しやすい。結果的に、教育・品質・生産性が一緒に前に進む感覚があります。
ーー最後に今後の展望などありましたら教えて下さい。
鴨志田様:次は社内間の下地検査を本格稼働させて、訪問削減を五割超まで持っていきたいです。是正や追加工事の一次トリアージも、標準の運用に落としていくつもりです。
それから、名刺に担当別のQRを入れる構想も進めたいですね。「困ったら名刺のQRにかざして」で、社外の方でも迷わず呼べるようにする。最終的には、“誰でも即つなぐ”が当たり前、という状態を全関係者に広げていきたいです。
groove agent 鴨志田様今回はインタビューへのご協力ありがとうございました。