確認検査業務は、現場を確認するだけでは済まされない領域。図面と現場の整合性を確認し、建築基準法に適合していることを判断する業務です。だからこそ、リモート化においても最優先したのは品質担保でした。
ハウスプラス住宅保証では、単なるオンライン化ではなく、検査の判断・確認・記録の精度を保ちながら移動を最小化し、より安定した検査提供体制を築くために、遠隔支援ツール「SynQ Remote(シンクリモート)」を活用した“リモート検査”の実装を進めています。
本記事では、ハウスプラス住宅保証が、法適合性の判断が重要な確認検査業務のリモート化をどのように進めていったのか、建築確認検査の最前線について伺いました。
※こちらでご紹介する取り組みは、建築基準法に基づく「完了検査」を、国土交通省の枠組みに準拠して遠隔で実施する「リモートB」の実装事例です。
ハウスプラス住宅保証は、建築確認検査、住宅性能評価、住宅瑕疵担保責任保険 の三本柱で事業を展開しています。本社は東京都港区で、仙台、名古屋、大阪、福岡に営業所があります。
今回リモート検査を導入しているのは、建築確認検査業務です。年間約15,000件の検査を実施していますが、有資格者が必要な業務で人材確保が大きな課題でした。
一番大きかったのは、取引先から九州エリアでの対応要望があったことです。東京から九州へ検査に向かうと片道3時間かかり、1件のために2日がかりになることもありました。そこで、国がリモート検査を認める方針を示したタイミングで、本格的に取り組むことを決めました。
ただ、この確認検査業務は法適合性を判断する非常に責任の重い仕事です。建物が1センチずれていたのを見落として合格させてしまうと、行政処分の対象になります。有資格者の個人名が公表され、業務停止処分もあり得る。画面越しでOKを出すという覚悟が必要でした。
社内でも「カメラで見て本当に大丈夫なのか?」という声は多かったです。これまでの一対一で現場に行く検査から、前提が大きく変わるわけですから。意識を変えるのが一番大変だったかもしれません。
一番は接続の簡単さです。360度カメラなど他のツールも検討しましたが、100人規模の検査員に配布することを考えるとコストが合わない。スマートフォンだけで始められるのが大きかったです。
ポインタ機能も便利です。「あそこの右」といった曖昧な指示ではなく、画面上で直接指せるので伝わりやすい。
最年長は70代の方ですが、むしろ「時代の最先端に興味がある」と前向きに取り組んでくださっています。依頼する前は断られると思っていたら「やれそうです」と返事をいただいて。
補助員の方からポジティブな言葉をいただき、私たちとしても大変励みになりました。
リモート検査に関わるすべての方が、無理なく・不安なく対応できるよう、日々さまざまな方法を試しながら、より良い形を目指して工夫を重ねています。
検査員側も最初は画面酔いがひどかったんです。でも慣れたのか、今はほとんど言われなくなりました。移動中の映像は注視しないなど、勘どころが分かってきたのかもしれません。
現在は主に福岡、沖縄、愛媛、神奈川の湘南、千葉の房総などで段階的に実施しています。現地には性能評価員の資格を持つ、普段から現場検査をしている建築士に補助員として入ってもらい、スマートフォンで撮影してもらいます。
検査の流れは、道路幅員等を測って、建物配置を確認して、中に入って各部を見ていく。最初は伝えたいことがうまく伝わらず時間がかかりましたが、3ヶ月ほどで「次はここを見るんだよね」と補助員側が先読みできるようになってきました。
今では補助員の方から「この辺も見ておきましょうか?」と提案してくれるようになりました。回を重ねるたびに良くなっていると感じます。
いま本格運用しているのは、国交省が推進する「リモートB(検査者のリモート検査)」の形態です。現地にはハウスメーカーの立会者と撮影を担う補助員が入り、遠隔側では有資格検査員が映像を見ながら検査判断を行います。制度の枠組みに沿った“まずはここから”という現実的なステップとして、運用を組み立ててきました。
最初のテスト期間では、検査手順を図面に蛍光ペンで書き込んで補助員に渡していました。ただ、住宅に限定しているのでパターン化されてきて、今はそこまでしなくても流れができています。
重要なのは、補助員を固定していることです。同じ人と繰り返しやることで、検査のポイントや撮影の勘どころが分かってくる。毎回違う人だと、また一から説明が必要になってしまいます。
リモート検査の基本フロー(※取材で伺った内容をもとに当社で整理)
ハウスプラス住宅保証では、現場の状況や検査種別に応じて、リモートを組み合わせた運用を設計しています。代表的な流れは以下です。
①事前準備(確認事項の共有)
検査対象・確認ポイント・当日の段取りを事前に整理し、現場側の撮影・案内負担を最小化
②通話接続(スマホで現場と接続)
現場担当者がスマホで接続し、検査員が遠隔からPC画面越しに状況を確認
③画面上での指示・確認
重要箇所は「どこを見ているか」を揃え、見落としを防ぐ
例:寸法の確認ポイント、部材の取り合い、指摘箇所の位置特定 など
④記録・共有(報告と次工程への引き継ぎ)
検査後の記録作成をスムーズにし、関係者へ共有しやすい形に整える
これまで、遠隔地の検査は移動負担がボトルネックとなり、取引先の全国展開に合わせた柔軟な対応が難しい状況がありました。
導入後は、福岡など遠隔地でもリモートで検査実施が可能になり、取引先の要望に“スピード感”を持って応えられる体制へ。エリアの壁が薄くなったことで、検査提供の機会損失を抑えられるようになりました。
稼働面でも変化が出ています。従来は移動を含めて2日で1〜2件が限界になるケースもありましたが、リモート運用により、スケジュールの組み方次第では半日で2〜3件実施できる日も出てきています。
しかも、効率化のために検査の中身を薄めたわけではありません。現地補助員(性能評価員)と有資格検査員が役割分担して連携することで、検査時間は対面と同程度の20〜30分を維持しながら、品質を担保したまま運用できています。
現在一人ひとりがやっているリモート検査をより効率化していきたいです。現場は常に2、3箇所動いているので、一人の検査員が遠隔から3現場を見られるようになると効率は格段に上がります。
一方で、2025年4月の法改正で省エネや構造の審査が義務化され、1件あたりの業務量が2倍になりました。どこの確認検査機関もキャパオーバーです。しかし、リモート検査は有効だと感じています。やり慣れてくると、十分に品質を担保しながら効率化できる。移動時間がほとんどない分、確認検査業務の本質に集中できます。
現場監督も人材不足ですが、立会のために予定を調整する必要がなくなれば、双方にメリットがある。まだ課題も多いですが、腹をくくってコツコツやっていくしかないと思っています。信頼関係を築きながら、一歩ずつ前に進んでいきたいです。
はい。次の挑戦として「リモートC(立会者も含めた完全リモート化)」を積極的に検討しています。リモートCは、現地には補助員(撮影)のみが入り、遠隔側に有資格検査員と立会者(事業者)が参加する形です。
立会者が現地に行かなくてよくなるので、現場監督の移動負担が一気に軽くなりますし、日程調整も“立会者の都合が最優先”という構造から抜けやすくなる。検査員側も、移動に縛られず裁量を持って現場にアクセスできるようになり、双方の効率化につながると見ています。
制度面では、建築基準法上「法律改正がなければ実施できない」という性質ではなく、関係者の合意と運用設計が整えば実施可能だと捉えています。一方で、運用の詰めは簡単ではありません。
たとえば鍵の管理、無人の現場にどう入室するのか。退出時の破損などトラブルが起きたとき、責任の所在をどう整理するのか。さらに、事業者側の心理的ハードルもあります。新しい検査方式を“自分ごと”として受け入れてもらうには、丁寧な対話が必要だと思っています。
協力的な事業者と一緒に、実証的に検討していくのが現実的です。連携しながら、まずは小さく試行して、論点を一つずつ潰していく。うまくいけばメリットは本当に大きいので、前向きに取り組んでいきたいですね。
まず前提として、協力してくれる事業者との関係づくりが欠かせません。「リモートでもいいからやってほしい」と言ってくれる相手とだけ始める。実験に付き合ってくれる姿勢があるかどうかが大きいです。包括契約の形で事前協議書を結び、トラブル時の対応も明確にしておくと、運用が回りやすくなります。
エリア展開も、いきなり全国ではなく、信頼できる補助員がいる地域から段階的に。結局、現場の“撮り方”や“勘どころ”は人に依存する部分があるので、固定の補助員と信頼関係をつくるのが最優先です。
ツール選定は、高機能よりも「簡単さ」。高齢の方でも迷わず使えることが、100人規模で広げるときに効いてきます。
そして最後は、社内の意識改革です。画面越しでOKを出す覚悟——法適合性の判断という責任の重さを全員が理解したうえで、「今までと違う一歩先」へ踏み出せるかどうか。OJTも最低数か月は見ておいた方がいい。マニュアルだけでは伝わらない“阿吽の呼吸”が生まれるまで、辛抱強くやる必要があります。
今回特に「画面越しでOKを出す覚悟」という言葉が印象的でした。建築確認検査という、人々の安全に直結する業務でのリモート化は、技術的な課題以上に、心理的なハードルが高かったはずです。
それでもリモート検査を進めた背景には、取引先のニーズに応えたいという想いと、人材不足という業界全体の課題がありました。
3ヶ月かけて「阿吽の呼吸」を作り上げた現場の努力が、今後の建築業界全体の効率化につながっていくことを期待しています。70代の建築士が「時代の最先端」に挑戦する姿勢は、年齢に関係なく新しいことに取り組める社会の可能性を示してくれました。
ハウスプラス住宅保証の家納様、向井様、佐藤様、お話を聞かせていただきありがとうございました。