鉄道の安全運行を支える夜間作業は、多摩都市モノレール様にとって欠かすことのできない重要業務です。しかし近年、設備の老朽化が進み、補修・点検の件数は増加。一方で、夜勤を希望する人材は減少し、熟練者の技術継承にも時間がかかるなど、構造的な課題が顕在化していました。
とくに「工作車」と呼ばれる保守用車が関わる作業では、これまで“1台につき1名の社員が必ず乗り込んで立会う”という運用が続いており、夜間の立会い件数は年々増加。現場の負担は限界に近づいていました。
こうした状況を打破するため、選択したのが遠隔臨場による立会いのデジタル化。
2022年度から試験導入を開始し、従来「1人:1台」から始めた遠隔立会いは、今では「1人:3台」へと大幅に変革。夜間作業は月10回→6〜7回へと減り、働き方改革と安全確保を同時に実現しました。
本記事では、同社が業界に先駆けて構築した“遠隔立会いモデル”の実態と、導入の裏側にあった課題、成果、そして現場に根付かせるための工夫を深掘りします。
夜間作業の立会いが増え続け、現場の負担が大きくなっていたことです。
2016年度と比較し、2020年度には1.7倍ほどの回数を立ち会うことになっていました。ある事象をきっかけに社員が必ず同行する方針になったこともあって、どうしても立会いが増えていくんですね。
夜間作業が終わっても業務が残っていると翌日も残業することもあり、心身ともに負担が大きくて、このままずっと続けるのは難しいなと感じていました。
さらに、夜間に働きたい人材は減っており、若手が育つまでにも時間がかかる。「早くても3年は必要」という声もあり、業界全体の課題が顕在化していました。
以前は、工作車が3台出れば社員も3人出て、それぞれに乗り込んで確認していました。ですが、遠隔臨場を使えば、確認すべきポイントだけ映像で送ってもらえば安全は担保できると判断しました。
実際に導入してみたら、月10回あった夜勤が6〜7回になって、日勤の仕事にも余裕が生まれました。『夜勤が減ったので身体的な負担が全然違う』という声は多いですね。
夜勤中の“空き時間”を効率的に使えるようになったことも大きいと言います。
夜間は電話もほとんど来ないので、自分のやりたい仕事を黙々とできる。それも導入後の良い変化だと思います。
現場の流れを極力変えないように、使い方を徹底的にシンプルにしました。
打ち合わせの紙に毎回QRコードを貼って、協力会社さんはそれを読み込むだけにしました。ソフトのダウンロードも個人情報の提供も不要なので、拒否感なく使ってもらえました。
さらに多摩モノレール独自の運用が“仮想部屋”です。
確認者(社員)は遠隔臨場でやり取りする場所を“仮想部屋”として、0時半から仮想部屋に入ってずっと待機するんです。そうすれば着信音が鳴らない心配や問題もなく、『今いいですか?』と声をかけてもらえばすぐ対応できるようにしました。全ての工作車が基地に戻ってきたら初めて部屋を出る。これが一番スムーズでした。
結果として、協力会社からの「操作が難しい」「繋ぎ方がわからない」といった声はほぼゼロ。
“現場の流れを変えすぎないDX”が、長期運用の鍵だったといえます。
最悪のケースまで想定した複数のバックアップ手段を事前に準備しています。
「万が一シンクリモートが使えない時はFaceTimeに切り替えますし、キャリアの障害が出た時は同乗している方の別のキャリアの端末を使うようにしています。」
全部の通信が止まった時用に、沿線電話を使う最終手段まで準備しているんです。インフラ企業として“万が一の時に何をするか”は最初から決めておく必要があると思っています。
POINT:ツールを便利に使うためのシステムや通信障害などに備えた多重バックアップを構築
シンクリモート停止 → FaceTimeなどへ切り替え
キャリア障害 → 他キャリア端末へ切替
全キャリア停止 → 沿線電話+写真撮影
“運行に影響を与えないための最後の砦”として、遠隔立会いをインフラ同等の重要ツールと位置づけている点は、他社でも参考にできる運用です。
夜勤が減ったことで心身の負担が大きく軽減し、日勤の業務効率も向上しました。
「身体的な負担は相当減りました。確認ポイントだけしっかり見ればいいので、間の時間は自分の作業ができますし、精神的にも余裕ができたと思います。」
また、昼間の点検でも利用され始め、活用の幅は広がっているといいます。
「スマホとスマホでも使えるので、別の現場にいながら確認ができる。最初想定していた“工作車のためのツール”という枠を超えて、いろんな場面で役立っています。」
特に、「自分がやるべき仕事に集中できるようになった」「夜勤が減ったことで働きやすくなった」という声が多いとのことです。
働き方改革と安全性向上を両立できている代表的な事例として参考になります。
深刻化する夜間作業・人材不足という業界共通の課題に対し、多摩都市モノレールは遠隔立会いモデルを先駆けて確立しました。
安全を守りつつ、現場の負荷を確実に減らす仕組みを構築できた背景には、現場オペレーションに寄り添ったDX設計と、インフラ企業としての強い危機意識があります。
同社の取り組みは、今後の鉄道・モノレール事業者における働き方改革と安全DXの新たな指針となるはずです。